平成23年に制定された「スポーツ基本法」においては,スポーツは,世界共通の人類の文化であり,国民が生涯にわたり心身共に健康で文化的な生活を営む上で不可欠なものであるとともに,スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは全ての人々の権利であるとされています。また同法において,スポーツは,青少年の健全育成や,地域社会の再生,心身の健康の保持増進,社会・経済の活力の創造,我が国の国際的地位の向上など,国民生活において多面にわたる役割を果たすものとされています。
スポーツ庁は,「スポーツ基本法」の理念を実現するため,国際競技力の向上はもとより,スポーツを通じた健康増進,地域・経済の活性化,国際交流・国際貢献,障害者スポーツの振興,学校体育の充実など,関係省庁や企業と一体となってスポーツ行政を総合的・一体的に推進しています。
平成29年3月,第2期スポーツ基本計画が策定されました。スポーツ基本計画は,文部科学大臣がスポーツに関する施策の総合的・計画的な推進を図るために定めるものであり,「スポーツ基本法」の理念を具体化し,国,地方公共団体及びスポーツ団体等の関係者が一体となってスポーツ立国の実現を目指す上での,重要な指針となるものです。
第2期スポーツ基本計画では,中長期的なスポーツ政策の基本方針として,
の四つの方針を立て,それらの方針の下に,今後5年間のスポーツに関する施策の柱として以下の四つを打ち出しました。
スポーツ庁は第2期スポーツ基本計画に基づき,全ての人々がスポーツの力で輝き,前向きで活力のある社会,絆(きずな)の強い世界,豊かな未来の実現を目指して,スポーツ行政に取り組むこととしています。

スポーツ関係予算は,平成29年度は約334億円を計上しました。国費では行き届きにくいスポーツ振興活動への助成を行い,スポーツ振興の補完的財源としての役割を果たしているのがスポーツ振興くじとスポーツ振興基金です。
スポーツ振興くじは,誰もが身近にスポーツに親しめる環境の整備,将来性を有する競技者の発掘・育成等のための財源の確保を目的として,超党派のスポーツ議員連盟により提案され,平成10年5月に議員立法として成立した「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」により創設されました。
現在,スポーツ振興くじとしては,サッカーの試合結果(勝敗・得点)を対象として,大きく分けて購入者が自分で予想を行う(予想系のくじ「toto」)と,コンピュータがランダムで試合結果を選択するくじ(非予想系の「BIG」)の2種類のくじを販売しています。
平成25年度からは,イギリスのプレミアリーグやドイツのブンデスリーガ等の海外のサッカーの試合結果をくじの対象とすることで,Jリーグの休止期間中でもくじを販売することが可能となり,ここ数年1,000億円を超える売上となっています。
この売上から得られる収益は,我が国のスポーツの振興のために使われることとなっています。これまでに約1241億円の助成金が,地方公共団体が行うグラウンドの芝生化や地域のスポーツ施設の整備,スポーツ団体が行うスポーツ選手の発掘・育成などに役立てられてきました(図表2‐8‐2)。
これからも,スポーツ振興くじの売上を拡大し,その収益によって日本のスポーツがますます発展するように取り組んでいくこととしています。

スポーツ振興基金は,我が国の国際競技大会における不振などを受け,競技水準の向上に向けた気運が高まる中,スポーツ関係者,経済界など民間各界からの要請等を踏まえて,政府出資金250億円を原資に,平成2年に設立されました。
その後,民間からの寄附金約45億円を原資に加え,その運用益等を財源として,トップアスリートの強化事業などに対する助成を行っており,平成28年度は,以下の事業に対し,約14億円の助成を行いました(図表2‐8‐3)。
しかしながら,近年の金利情勢を鑑み,財政資金の有効活用を図る観点から,政府出資金250億円については,125億円ずつを新国立競技場の整備費と2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,「2020年東京大会」という。)に向けた選手強化費に充当することを決定し,平成27年度から段階的に国庫納付することとしています。

スポーツ庁においては,「スポーツ基本法」の理念を具体化していくため,従来文部科学省で行っているスポーツ振興施策の更なる充実を図ることはもとより,新たなスポーツ施策を強力に進めることが期待されています。特に,「スポーツ基本法」の前文には,「スポーツは,心身の健康の保持増進にも重要な役割を果たすものであり,健康で活力に満ちた長寿社会の実現に不可欠」であると規定されているとおり,我が国の国民医療費が年間で約41兆円に達する中,運動・スポーツに取り組むことによる効果として,健康増進,健康寿命(※1)の延伸が注目されるようになってきています。
そのため,スポーツを通じた健康増進を重点的に推進し,運動・スポーツにより健康寿命が平均寿命に限りなく近づくような社会の構築を目指すことが重要となっています。
スポーツを通じた健康増進を図っていくためには,国民全体のスポーツへの参画を促進するとともに,国民の誰もが,いつでも,どこでも,いつまでもスポーツに親しむことのできる環境整備が必要です。
平成28年度の調査では,成人の週1回以上のスポーツ実施率は42.5%,週3回以上では19.7%となっています(図表2‐8‐4)。一方で,「この1年間に1回もスポーツを実施しなかった」かつ「今後もするつもりがない」と回答した人が27.2%存在しています。年代別・性別に見ると20代から40代の実施率が低く,多くの年代で男性よりも女性の方が低くなっています(図表2‐8‐5)。スポーツをする理由としては,「健康のため」が77.4%と最も多く,「体力増進・維持のため」,「楽しみ・気晴らしとして」が続いています。逆に実施頻度が減ったあるいは増やせない理由としては,「仕事や家事が忙しいから」,「面倒くさいから」,「年をとったから」などが多くなっています。スポーツ庁では,これらの現状を踏まえながら,ライフステージに応じたスポーツ活動の推進とその環境整備を行うことによって,成人のスポーツ実施率を週1回以上が65%程度,週3回以上が30%程度となることを目指しています。


総合型地域スポーツクラブ(総合型クラブ)は,地域住民が自主的・主体的に運営し,身近な学校や公共施設などを拠点として日常的に活動する地域密着型のスポーツクラブです。生涯スポーツ社会の実現に寄与するほか,地域の子供のスポーツ活動の場の提供,家族のふれあい,世代間交流による青少年の健全育成,地域住民の健康維持・増進などの地域社会の再生に関する多様な効果も期待されています。
全国の総合型クラブの数は,平成28年度に3,586クラブとなっており,クラブ育成率(全市区町村数に対する総合型クラブが設置されている市区町村数の割合)は,同年度に80.8%に達しています(図表2‐8‐6)。一方で,近年は創設されるクラブ数の減少等により総合型クラブの数や設置されている市区町村数の増加のペースは,緩やかになってきています。
また,「平成28年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」によると,自己財源率が50%以下となっているクラブやPDCAサイクルが定着していないクラブも少なくない状況となっています。
こうした状況等を踏まえて,総合型クラブに関する今後の方向性や具体的施策について検討を行うため,「総合型地域スポーツクラブの在り方に関する検討会議」を開催し,平成28年11月に提言を取りまとめました。
この提言では,総合型クラブが,2020年東京大会以降も地域におけるスポーツの推進エンジンとなり,地域の様々な課題を解決する役割を担える団体として定着し,持続的に成長していくための基本的方向性や今後取り組むべき具体的方策が示されています。
平成29年度からは,提言内容や第2期スポーツ基本計画の内容を踏まえ,関係団体と連携し,総合型クラブの自立的な運営の促進に向けた支援を担う中間支援組織の整備や総合型クラブによる行政等と協働した公益的な取組の促進を図るための登録・認証等の制度の整備など,総合型クラブの質的な充実に向けた施策を推進し,総合型クラブの持続的な発展を図っていくこととしています。

スポーツ庁では,スポーツに無関心な層も含めた国民全体のスポーツへの参画を促すため,「スポーツによる地域活性化推進事業」を実施しています。具体的には,地方公共団体が行うスポーツを通じた健康増進の意識の醸成やスポーツへの興味・関心を喚起する取組等を支援しています。
また,「する」「みる」「ささえる」スポーツの楽しみ方や関わり方等を分かりやすく提案するとともに,スポーツ未実施者への働き掛けやスポーツの継続的実施のための方策等について整理したガイドラインの策定に向けた検討を行っています。平成28年度においては,「スポーツ・ガイドライン(仮称)骨子」を取りまとめたところであり,29年度内の策定に向けて,引き続き検討を行っていくこととしています。
さらに,平成29年度中に生活習慣病の予防・改善や介護予防を通じて健康寿命の延伸に効果的なスポーツ・レクリエーションを活用したプログラム等を策定するため,28年度においては運動・スポーツの価値効用について,調査研究を実施しました。
加えて,スポーツ庁では,毎年10月を「体力つくり強調月間」として,広く国民に健康・体力つくりの重要性を呼び掛けるとともに,「体育の日」を中心とした体力テストや各種スポーツ行事を実施しています。
また,多年にわたり地域や職場において,スポーツの振興に顕著な成果を上げた人や団体等に対し,その功績をたたえるため,文部科学大臣が表彰を行っています。
人間が発達・成長し,創造的な活動を行っていくために,体力は必要不可欠なものです。文部科学省では,昭和39年から「体力・運動能力調査」を実施してきているところですが,平成10年度に新体力テストが採用された以降の合計点の推移を見ると,ほとんどの年代で緩やかな向上傾向となっています(図表2‐8‐7)。

一方,平成10年度以前から継続実施されている項目を見ると,体力水準が高かった昭和60年頃との比較では,握力及び走能力(50m走・持久走),跳能力(立ち幅とび),投能力(ソフトボール投げ・ハンドボール投げ)に係る項目は,依然低い水準となっています(中学生並びに高校生男子の50m走を除く。)(図表2‐8‐8)。

小学校5年生,中学校2年生の全児童生徒を対象として実施した「平成28年度全国体力・運動能力,運動習慣等調査」における,1週間の総運動時間についての集計結果を見ると,中学校では,運動をする子供とそうでない子供に二極化しています。特に,中学校女子においては,1週間の総運動時間(体育の授業を除く)が60分未満の生徒が全体のおよそ5分の1存在することなど,生涯にわたって運動やスポーツに親しむ資質や能力の育成が十分に図られていないことが懸念されています(図表2‐8‐9)。
こうした状況に鑑み,スポーツ庁では,「全国体力・運動能力,運動習慣等調査」の結果に基づき,教育委員会での継続的な検証改善サイクルの確立や学校での体育活動の改善充実,学校・家庭・地域が一体となった体力向上の取組を推進しています。

現行の学習指導要領では,生涯にわたって運動に親しむ資質・能力を育てることや体力の向上を図ることを狙いとして,小学校から高等学校までを見通して,指導内容の系統化や明確化を図っています(図表2‐8‐10)。
その成果として,運動やスポーツが好きな児童生徒の割合が高まったこと,体力の低下傾向に歯止めが掛かったこと,健康の大切さへの認識や健康・安全に関する基礎的な内容が身に付いていることなどが見られます。他方で,「子供の体力の現状と課題(※2)」で示したようなことも見られること,社会の変化に伴う新たな健康課題に対応した教育が必要などの指摘があります。
これらを踏まえ,スポーツ庁では,平成29年3月に小学校及び中学校学習指導要領を改訂し,体育・保健体育については,スポーツとの多様な関わり方を楽しむことができるようにする観点から,運動に対する興味や関心を高め,技能の指導に偏ることなく,「する」,「みる」,「支える」に「知る」を加え,「知識・技能」,「思考力・判断力・表現力等」,「学びに向かう力・人間性等」といった三つの資質・能力をバランス良く育むことができるように学習の過程を工夫し,充実を図ることとしています。また,我が国の伝統と文化により一層触れることができるよう,武道の内容の充実を図り,学校や地域の実態に応じて種目が選択できることとしています。さらに,健康に関心を持ち,自他の健康の保持増進や回復を目指して,疾病等のリスクを減らしたり,生活の質を高めたりすることができるよう,知識の指導に偏ることなく,三つの資質・能力をバランス良く育むことができるように学習過程を工夫し,充実を図ることとしています。

運動部活動については,顧問の教員が担当する競技の経験がないために専門的な指導が行えない部活動が見られることや,部活動の指導が教員の長時間労働につながっているとの指摘があることなどから,その指導体制の改善が求められています。
このため,学校におけるスポーツ,文化,科学等に関する教育活動(学校の教育課程として行われるものを除く。)に係る指導体制の充実が図られるよう,学校の教育課程を除く教育活動に関する技術的な指導に従事する「部活動指導員」の規定を盛り込んだ「学校教育法施行規則の一部を改正する省令」が平成29年3月に公布され,翌月施行されました。
また,「平成28年度全国体力・運動能力,運動習慣等調査」において,新たに運動部活動における休養日の設定状況等についての調査を行い,「学校の決まりとして1週間のうちに休養日を設けていない学校が22.4%」,「土日に休養日を設けていない学校が42.6%」となっていることなどが明らかになったことから,各都道府県教育委員会等に対し,運動部活動における適切な練習時間や休養日を設定することについて要請しました。
スポーツ庁では,運動部活動の運営の適正化を推進するため,平成29年度において,教員,生徒,保護者等を対象とした運動部活動に関する総合的な実態調査や,スポーツ医・科学等の観点からの練習時間や休養日等の調査研究を実施するとともに,それらを踏まえた運動部活動に関する総合的なガイドラインを策定することとしています。
スポーツ庁では,運動会等で実施される組体操について,年間8,000件を上回る負傷者が発生している現状を踏まえ,教育委員会と学校に対して,「組体操等による事故の防止について」(平成28年3月25日付け事務連絡)を発出し,活動内容に応じた安全対策を確実に講じることを求めています。また,体育活動中の重大事故の防止に向けて,教育委員会と学校に対して,発生した体育活動中の重大事故をまとめた「学校における体育活動中(含む運動部活動)の事故防止等について」(平成28年9月28日付け事務連絡)を発出し,事故防止に万全を期するよう求めています。26年度からは事故防止のための最新の知見,全国の事故の発生状況や事例等に係る情報を共有するために,「スポーツ事故防止対策推進事業」を通じて全国セミナーを実施しています。28年度は全国8か所で開催するとともに,スポーツ事故防止に関するハンドブックや体育活動中の事故防止のための映像資料などを作成・配布し,より一層安全な体育活動を推進しています。
また,平成29年3月27日に栃木県那須町で雪崩が発生し,登山講習会に参加していた高校生や教員8名が亡くなるという痛ましい事故が発生しました。スポーツ庁では毎年,各都道府県教育委員会等に対し冬山登山の事故防止について通知を発出し,高校生等以下については原則として冬山登山は行わないよう指導しておりましたが,本事故を受け,冬山登山の事故防止に関する緊急通知を発出し,改めて指導の徹底を行いました(平成29年3月27日付けスポーツ庁次長通知)。
「スポーツ基本法」においては,障害のある人の自主的かつ積極的なスポーツを推進するとの理念が掲げられています。パラリンピック競技大会をはじめ,近年,障害者スポーツにおける競技性の向上は目覚ましく,障害者スポーツに関する施策を,福祉の観点に加え,スポーツ振興の観点からも一層推進していく必要性が高まっています。
平成27年度のスポーツ庁委託調査によると,障害のある人(成人)の週1回以上のスポーツ実施率は19.2%(成人全般の実施率は42.5%(28年度スポーツ庁調査))にとどまっており(図表2‐8‐11),地域における障害者スポーツの一層の普及促進に取り組む必要があります。
そこで,スポーツ庁では平成27年度から,一部の都道府県・政令指定都市において,スポーツ関係者と障害福祉関係者が連携・協働体制を構築し,一体となって障害者スポーツを推進する事業を実施しています。28年度からは,特別支援学校等を有効に活用し,地域における障害者スポーツの拠点づくりを推進する事業を実施しています。
また,2020(平成32)年に全国の特別支援学校で,スポーツ・文化・教育の全国的な祭典を開催する「Specialプロジェクト2020」を推進することとしています。このような中,28年度においては,「Specialプロジェクト2020」文部科学省推進本部会合を開催して具体的な取組について検討するとともに,同プロジェクトのプレイベントとして,ボッチャ(※3)の普及啓発を推進するため,文部科学省ボッチャイベントを実施しました。本イベントには,文部科学大臣,副大臣,大臣政務官や,特別支援学校の児童生徒,パラリンピアンなど関係者が参加し交流を深めました。29年度からは,具体的な先進事例を蓄積するためのモデル事業等を実施することとしています。
さらに,多くの障害者スポーツ団体が事務局体制や運営資金等の活動の基盤の脆(ぜい)弱さを課題として挙げていること等を踏まえ,組織面,財政面で脆(ぜい)弱な障害者スポーツ団体に対して,企業を個別に訪問して,障害者スポーツ団体への支援を要請する取組を始めたところであり,文部科学副大臣による個別の企業訪問も行っています。これらの取組を通じて,障害者スポーツの振興を図っていくこととしています。

平成13年度から,それまで別々に開催されていた身体に障害のある人と知的障害のある人の全国スポーツ大会が統合され,「全国障害者スポーツ大会」として開催されています。20年度から,精神障害者のバレーボール競技が正式種目に加わり,全国の身体,知的,精神に障害のある人々が一堂に会して開催される大会となっています。本大会は,障害のある選手が,競技等を通じ,スポーツの楽しさを体験するとともに,国民の障害に対する理解を深め,障害のある人の社会参加の推進に寄与することを目的として,国民体育大会の直後に,当該開催都道府県で行われています。
平成28年度の第16回大会は,同年10月22日から24日まで岩手県において開催され,約5,500人の選手・監督等が参加しました。なお,29年度の第17回大会は,愛媛県で開催されます。
デフリンピックとは,4年に一度行われる,聴覚に障害のある人の国際スポーツ大会であり,夏季大会と冬季大会が開催されています。夏季大会は1924(大正13)年,冬季大会は1949(昭和24)年をそれぞれ第1回として開催されています。2017(平成29)年7月には,トルコのサムスンにおいて夏季大会が開催される予定です。
スペシャルオリンピックスとは,4年に一度行われる知的発達障害のある人のスポーツの世界大会であり,夏季大会と冬季大会が開催されています。スペシャルオリンピックスは順位は決定されるものの,最後まで競技をやり遂げた選手全員が表彰されるといった特徴がある大会です。夏季大会は,1968(昭和43)年,冬季大会は1977(昭和52)年をそれぞれ第1回として開催されており,2017(平成29)年2月にはオーストリアのシュラートミンクにおいて第11回冬季大会が開催されました。
パラリンピックは,オリンピックの直後に当該開催地で行われる,障害者スポーツの最高峰の大会であり,夏季大会と冬季大会が開催されています。夏季大会は,1960(昭和35)年にイタリアのローマで第1回大会が開催され,オリンピック同様4年に一度開催されています。2016(平成28)年9月には,ブラジルのリオデジャネイロにおいて第15回大会が開催されました。
冬季大会は,1976(昭和51)年にスウェーデンのエンシェルツヴィークで第1回大会が開催されて以降,オリンピック冬季大会の開催年に開催されており,2018(平成30)年3月には韓国の平昌で開催が予定されています。
2016(平成28)年に開催されたリオデジャネイロオリンピック競技大会では,前回ロンドン大会を上回る12個の金メダルを獲得し,総メダル数では史上最多となる41個のメダルを獲得しました。また,第4位から第8位までを合わせた入賞総数も計88で史上最多となりました。
一方,リオデジャネイロパラリンピック競技大会では,金メダルの獲得はできなかったものの,総メダル数では前回ロンドン大会を8個上回る24個を獲得しました。また,冬季競技大会では,2014(平成26)年のソチオリンピック冬季競技大会において8個のメダルの獲得,入賞総数28を果たすなど,国外で開催された冬季大会では史上最高の成績となりました(図表2‐8‐12)。
また,平成26年度からスポーツ振興の観点で行われる障害者スポーツに関する事業が厚生労働省から文部科学省に移管され,パラリンピック競技の国際競技力の向上にオリンピック競技と一体的に取り組む体制が整いました。現在,オリンピック・パラリンピック両競技大会における日本代表選手の更なる活躍のため,各種取組を進めています。

スポーツ庁においては,公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC),公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会(JPC),各競技団体が掲げる目標の達成に向け,関係機関と連携しながら,我が国の国際競技力の向上に向けた環境整備に取り組んでいます。
2020年東京大会における日本代表選手のメダル獲得に向けて,様々な選手強化活動を包括的,戦略的に実施していくことが重要となります。
このため,「競技力向上事業」として,各競技団体が行う国内外の強化合宿やコーチ等の設置などの日常的・継続的な強化活動及び2020年東京大会等で活躍が期待される次世代アスリートの発掘・育成などの戦略的な強化について,オリンピック競技とパラリンピック競技の一体的な支援を実施しています。
特に,現時点のトップアスリート(※4)への支援のみならず,将来のトップアスリートとして活躍が期待される競技者の発掘・育成は重要です。2020年東京大会及びそれ以降の大会で活躍が期待される若い世代の競技者に対して,将来メダル獲得の可能性のある競技種目をターゲットとした集中的な育成支援や海外での長期的な強化活動を行うとともに,全国各地の才能を有するタレントを効果的に発掘・育成し,タレントからメダルポテンシャルアスリート(メダル獲得の潜在力を有するアスリート)まで確実に発掘・育成・強化する体制の整備を目指しています。
また,メダルの獲得が期待される競技をターゲットとして,多方面から専門的かつ高度な支援を戦略的・包括的に行う「ハイパフォーマンスサポート事業」を実施しています。具体的には,
を行っています。3.について,平成28年度においては,2016年リオデジャネイロオリンピック・パラリンピック競技大会において現地拠点を選手村村外に設置し,特にリカバリーやコンディショニング機能に重点を置いたサポートを実施しました(※5)。
さらに,女性特有の課題に着目した調査研究や,医・科学サポート等の支援プログラム,女性競技種目におけるハイレベルな競技大会の開催や,女性エリートコーチの育成プログラムの実施により,女性アスリートの国際競技力の向上を図っています。

ハイパフォーマンスサポート事業におけるアスリート支援の活動風景(映像分析)

ハイパフォーマンスサポート事業における研究開発の例左:柔道映像管理データベースシステム(GOJIRA),右:ボッチャ用ボール
我が国の国際競技力の向上のためには,トップアスリートの強化やスポーツ医・科学,情報に関する研究活動等の拠点を構築し,拠点間の連携やネットワークも活用しながら,選手強化への支援を行うことも重要です。そのため,ナショナルトレーニングセンター(NTC)(※6)と国立スポーツ科学センター(JISS)の整備,既存施設のNTC競技別強化拠点施設への指定を行っています。平成28年4月にはNTCとJISSの管理運営を行う日本スポーツ振興センター(JSC)内にトップアスリートの強化のための新たな組織として設置されたハイパフォーマンスセンターの下に,東京都北区西が丘地区内に隣接するNTCとJISSにあるスポーツ医・科学研究,スポーツ医・科学情報サポート,トレーニング場等の機能を,オリンピック競技とパラリンピック競技を一体的に捉え,更なる機能強化が図られています。
ナショナルトレーニングセンター(NTC)は,トップアスリートが同一拠点で集中的・継続的に強化活動を行うトレーニング拠点として平成20年に全面供用を開始しました。隣接するJISSと一体的にJSCが管理運営を行っています(※7)。
また,NTCのみでは対応できない,冬季,海洋・水辺系,屋外系のオリンピック競技,高地トレーニング及びパラリンピック競技のトレーニング環境の充実を図るため,既存施設をNTC競技別強化拠点施設として指定しています(図表2‐8‐13)。
さらに,オリンピック競技とパラリンピック競技の強化・研究活動拠点の機能強化やその在り方について検討するための有識者会議において,平成27年1月に「最終報告」が取りまとめられ,NTCやJISSのオリンピック競技とパラリンピック競技の共同利用化やNTCの拡充整備等について提言されました。これを受け,スポーツ庁においては,オリンピック競技とパラリンピック競技の一体的な拠点構築を進めており,28年度においては,NTC拡充整備の実施設計を行いました。
国立スポーツ科学センター(JISS)(※8)は,スポーツ医・科学,情報研究推進の中枢機関として平成13年に設置されました。各分野の研究者,医師等が連携しながら,各競技種目特有の課題解決を目的とした「スポーツ医・科学研究事業」,JISSにおける研究成果を踏まえたトレーニング指導,動作分析,映像技術サポートを行う「スポーツ医・科学支援事業」,リハビリテーション,心理カウンセリング,栄養相談等を行う「スポーツ診療事業」を実施し,スポーツ医・科学面から我が国の国際競技力の向上を支援しています。

スポーツ庁では,平成28年10月「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」を策定しました。
前回ロンドンオリンピック競技大会では13競技でメダルを獲得しましたが,リオデジャネイロオリンピック競技大会でのメダル獲得競技数は10にとどまりました。また,リオデジャネイロパラリンピック競技大会でのメダル獲得競技数は前回ロンドン大会の6を上回り7に達しましたが,世界の競技水準が急激に上昇する中で夏季大会として史上初めて金メダルの獲得を逃しました。
我が国はメダルの獲得が安定して期待できる競技が固定的かつ少数であり,それらはいずれも強豪国と呼ばれる国々などと既に厳しい競合関係にあるため,それらの競技だけで飛躍的にメダル獲得数を伸ばすことは困難な状況となっています。2020年東京大会において,JOC及びJPCのメダル獲得目標を踏まえつつ,日本が過去最高の金メダル数を獲得するなど優秀な成績を収めるには,得意とする競技の強化を一層図るとともに,メダルを獲得できる競技数を増やす必要があります。
このプランでは,2020年東京大会で日本が優れた成績を収めるよう支援するだけでなく,その取組を強力で持続可能な支援体制として構築・継承することを目指しています。メダル獲得を目標・原動力とした日本のトップアスリートのひたむきな努力,試合で躍動する姿は,勝敗にかかわらずこの国に活力を,国民に希望と勇気を与える素晴らしい力を持っています。その力が2020年東京大会以降も永く発揮されるよう,各中央競技団体による競技力強化のプロセスを支える優れた仕組みを後世に伝えることは,競技スポーツの祭典である2020年東京大会の開催国に創出されるにふさわしい最重要のレガシー(遺産)です。
スポーツ庁では,このプランで掲げる以下の六つの観点から,関係団体と連携を図りつつ,我が国の競技力強化を支援することとしています。

我が国で国際競技大会を開催することは,我が国の競技力向上に資する環境の構築などスポーツの振興につながるだけでなく,世界のトップアスリートの競技を目の当たりにすることを通じて多くの国民に夢や感動を与えるなど,国際交流,国際親善や経済・地域の活性化等にも大きく寄与します。スポーツ庁では,国際競技大会の招致・開催が円滑に行われるよう,関係団体・府省庁との連絡調整を行い,必要な協力・支援を行っています。
例えば,2019年女子ハンドボール世界選手権大会(熊本県内)の招致の際は,大臣メッセージを発出し,2021(平成33)年世界水泳選手権大会(福岡県・福岡市)の招致の際は,スポーツ庁長官がプレゼンテーションを行うなどの支援を行いました。2026年アジア競技大会(愛知県及び名古屋市共催)については,招致活動時から開催が決定した2016(平成28)年9月以降も,要望に対する対応等の支援に努めています。2017札幌アジア冬季競技大会(北海道・札幌市,帯広市)やワールドマスターズゲームズ2021関西(関西圏)については,大会成功に向けて大会組織委員会が行う開催準備等に対する支援を行っています。スポーツ庁では,世界規模の総合競技大会だけでなく,単一競技大会やアジア地区の競技大会なども含めて,様々な国際競技大会の招致・開催に向けた協力と支援を行っています。
2019(平成31)年に我が国において開催するラグビーワールドカップ(以下,「RWC2019」という。)は,アジアで初の開催であるとともにラグビー伝統国以外で初の開催となります。また,RWC2019の翌年には,2020年東京大会が控えていることからも,訪日観光客の増加による社会・経済の活性化に寄与することが期待されています。
大会の開催に向けては,平成28年12月にスポーツ庁及び総務省により,「RWC2019における地域交流推進要綱」を策定し,開催地方公共団体及び公認チームキャンプ候補地方公共団体が実施する地域交流や公認チームキャンプ実施の取組に対して特別交付税措置を講じるとともに,開催地方公共団体及び公認チームキャンプ候補地方公共団体が実施する施設改修に対して地方債措置を講じることを決定しました。
大会開幕の1,000日前に当たる平成28年12月24日には,ラグビーワールドカップ2019組織委員会や日本ラグビーフットボール協会,各開催都市が連携し,1,000日前記念PRイベントが全国各地で開催されるなど,国内12開催都市で行われる熱い試合に向けて様々な取組が行われています。
また,スポーツ庁では,「2019年ラグビーワールドカップ普及啓発事業」として,小・中学生年代を対象に,タグラグビー(※8)を活用したラグビー競技の普及拡大に取り組んでいます。このほか,同事業において,ラグビーの専門的指導者を派遣して平日の放課後にラグビーに親しむことができる放課後ラグビー教室の実施や,高校生年代を対象としたラグビーを通じた国際交流事業を推進しています。

ラグビーワールドカップ2015(c)JR2019,photobyH.Nagaoka

ラグビーワールドカップ2019開催都市
国民体育大会は,広く国民の間にスポーツを普及し国民の体力の向上を図るとともに,地方スポーツの振興と地方文化の発展に寄与することを目的として,毎年都道府県対抗方式によって開催される国内最大の総合スポーツ大会です。文部科学省,公益財団法人日本体育協会,開催地の都道府県が共同で国民体育大会を主催しています。平成28年の第71回大会では,冬季大会(岩手県)と本大会(岩手県)を合わせて40競技が実施され,約2万5,000人の都道府県代表選手・監督が天皇杯(男女総合成績1位)・皇后杯(女子総合成績第1位)を目指して競い合いました(図表2‐8‐15)。

2020年東京大会のメインスタジアムとなる新国立競技場の整備については,平成24年の国際デザインコンクールで最優秀賞に選定したデザインを基本にして整備計画を推進してきましたが,コストが当初の計画による想定よりも大きくなり,国民の支持が得られなくなったことから,27年7月に白紙撤回がなされました。これを受け,同年8月,東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣を議長とする「新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議」(以下,「関係閣僚会議」という。)において,アスリート第一,世界最高のユニバーサルデザイン,周辺環境等との調和や日本らしさを基本理念とした新たな「新国立競技場の整備計画」が決定されました。同計画を踏まえ,2020年東京大会に確実に間に合うよう,31年11月末の完成に向けて着実に整備を進めています。
また,旧国立競技場の建物内及び敷地内に設置されていた,壁画や彫像等の記念作品等(25作品)について,この地の記憶として先人から受け継ぎ,後世に引き継ぐ重要なレガシー(遺産)として引き続き有効活用されるよう,有識者の意見を踏まえて,新国立競技場の建物内及び敷地内に設置することとしています。
JSCは,平成28年1月,設計・施工を一貫して行う「新国立競技場整備事業」に係る契約を新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体と締結して,同月から設計業務等を行う第I期事業を開始し,同年11月,実施設計段階における完成予想図(パース)及び国民向け説明資料「新国立競技場整備事業~もっと知っていただくために~」を公表しました。
また,平成28年10月からは,建設工事等を行う第II期事業を開始し,同年12月,本体工事を着工しました。同月11日には,着工を記念した「新国立競技場整備事業起工式」が建設予定地にて挙行され,内閣総理大臣,東京オリンピック・パラリンピック競技大会担当大臣,文部科学副大臣,東京都知事らが出席しました。
新国立競技場の整備に係る財源については,平成27年12月の関係閣僚会議において「国の負担」,「スポーツ振興くじ(toto)の特定金額(※10)」,「東京都の負担」とする財源スキームが決定され,これを実現するため,「独立行政法人日本スポーツ振興センター法」及び「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」が28年5月に改正されました。
本財源スキームの実行に当たっては,スポーツ振興基金に係る政府出資金250億円の有効活用を図るため,その半額を本財源スキームに基づく国の負担として充当することとし,平成28年度第2次補正予算において歳入予算及び歳出予算に125億円を計上しました。今後とも,関係府省や東京都等と連携して財源の確保に取り組むこととしています。

南東側からの鳥瞰図

スタジアム内観パース

車いす席内観パース
Copyright(C)大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JV
新国立競技場は,2020年東京大会後のレガシー(遺産)としても,国際競技大会の誘致・開催等といったスポーツの振興はもとより,周辺地域の活性化や観光の振興,防災機能の強化など,様々な役割が期待されています。
大会後の運営管理については,平成28年2月から,文部科学副大臣を座長とする「検討ワーキングチーム」において,今後進められる整備プロセスを前提としつつ,大会後の利活用の在り方や,収益を上げる手法などについて実務的に検討を行い,同年9月,新国立競技場で行われるスポーツ事業,民間の創意工夫を最大限活用するための手法,収益性を高めるための取組などの事項について選択肢を示す形で取りまとめた「大会後の運営管理に関する論点整理(案)」を関係閣僚会議に報告し了承されました。
今後は,本論点整理を踏まえ,検討ワーキングチームにおいて関係団体(スポーツ団体,民間事業会社等)との意見交換を行いつつ,民間運営の手法について更なる検討を行うこととしています。
2016(平成28)年8月にブラジルのリオデジャネイロで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会において,公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が提案した2020年東京大会の追加種目が決定されました。IOCは2014(平成26)年12月に採択した「オリンピック・アジェンダ2020」における改革の一つとして,開催都市の組織委員会が種目の追加を提案できることとしており,組織委員会は国際競技連盟等からのヒアリングを行うなどして絞り込みを進めてきました。日本での機運を高めることや若者世代へオリンピックの価値を訴えるなどの観点から,野球・ソフトボール,空手,スケートボード,スポーツクライミング,サーフィンの計5競技18種目が提案され,IOC総会において全会一致で承認されました。
また,追加種目の会場についても,2016(平成28)年12月のIOC理事会で承認されました(図表2‐8‐16)。組織委員会提案による追加種目の実施は2020年東京大会が初めてであり,大会のより一層の盛り上がりが期待されます。


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(C)(公財)日本ソフトボール協会

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(C)国際サーフィン連盟
2013(平成25)年8月,アルゼンチンのブエノスアイレスで行われたIOC総会における,2020(平成32)年オリンピック・パラリンピック大会の東京招致に際し,安倍内閣総理大臣が「日本は100ヵ国以上,1,000万人以上の人々にスポーツの悦(よろこ)びを届けます」と宣言しました。この総理宣言をきっかけに始まった「Sport for Tomorrow(SFT)」プログラムは,2014(平成26)年から2020(平成32)年までの7年間で,世界のより良い未来のため,若者をはじめあらゆる世代の人々に,スポーツの価値とオリンピック・パラリンピック・ムーブメントを広げて行く取組です。この取組を推進するため,平成26年8月にスポーツ庁,外務省,日本スポーツ振興センター(JSC),日本オリンピック委員会(JOC),日本パラリンピック委員会(JPC)等のスポーツ統括団体から成る運営委員会と,それ以外の企業や地方公共団体,NGO・NPO,大学等から成るSFT会員の双方で組織されたSport for Tomorrowコンソーシアム(官民協働体)を設立し,各機関の連携を強化する体制が整備されました。主に「スポーツの普及と国際的競技レベルの向上」,「スポーツの力で世界を変える(平和と開発)」,「スポーツ交流を国民的な文化に」をテーマに,各コンソーシアム会員が相互に連携し,事業に取り組んでいます。
最近の具体的な成果としては,平成28年12月に26年度から継続的に策定支援を行ってきたカンボジアにおける中学校体育の新しい学習指導要領が同国教育省より認定を受けました。また日本式のスポーツイベントである「運動会」もアフリカのマラウイをはじめ,インド,ラオス,グアテマラへ広がりを見せています。さらに,障害がある人もない人も皆が,同じルールの下で体を動かす「共生型スポーツ」の普及活動も,南米へと支援の輪を拡大しました。その他国際的な人材育成のため,筑波大学では27年9月から,つくば国際スポーツアカデミー(TIAS)において,修士課程のプログラムを開始し,29年3月には国内外のスポーツ関係機関へ第一期生を輩出しました。また,日本体育大学,鹿屋体育大学においても,引き続き各大学の特徴を活いかした短期の人材養成プログラムを実施しています。このような各国での取組を継続し,官民連携の下,2020(平成32)年に向けて日本から世界へ,スポーツの力を発信することとしています。
2020年東京大会を契機に,子供から大人まで国民一人一人がスポーツの価値並びにオリンピック・パラリンピックの意義に触れることで,スポーツの価値を再認識し,多くの方がスポーツに親しむようになることは大会の有形・無形のレガシー(遺産)の一つとして重要だと考えます。
平成27年11月27日に閣議決定された「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」では,東京のみならず,全国津々浦々に大会の開催効果としてのレガシー(遺産)を波及させ,大会後も地域が力強く発展していくことに加え,東日本大震災の被災地の復興の後押しとなることとされており,オリンピック・パラリンピック教育を全国に展開し,大会のレガシー(遺産)を全国に波及させることが必要です。
文部科学省では,平成27年2月にオリンピック・パラリンピック教育を推進するための方策等について,有識者会議を開催して検討し,28年8月に「オリンピック・パラリンピック教育の推進にむけて」として最終報告を取りまとめました。
さらに,平成27年度,「オリンピック・パラリンピック教育の推進のための効果的な手法に関する調査研究事業」として,宮城県・京都府・福岡県の3府県において初等中等教育機関等と連携した実践的な取組を行いました。28年度は,前年度の調査研究事業で実施した教材開発やモデル教育プログラム,全国の好事例の収集等の取組をベースとして,「オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業」を実施しました。この事業では,全国12の府県において,市民フォーラムやオリンピック・パラリンピック競技の体験講座,教員向けワークショップを実施し,オリンピック・パラリンピック教育の普及・推進に取り組んでおります。また,28年10月から公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が実施する教育プログラム「ようい,ドン!」が開始され,オリンピック・パラリンピック教育を実施している学校に対して認証を行うことで,大会エンブレムが入った公認マークの使用が可能となりました。こうした取組を今後とも推進し,大会の効果を全国に展開することとしています。
ドーピングとは,競技者の競技能力を向上させるため,禁止されている薬物を使用することなどを言います。ドーピングは,1.競技者に重大な健康被害を及ぼす,2.フェアプレーの精神に反し,人々に夢や感動を与えるスポーツの価値を損ねる,3.優れた競技者によるドーピングが青少年に悪影響を与えるなどの問題があり,世界的規模での幅広い防止活動が求められています。
我が国は,2006(平成18)年にユネスコ「スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約」を締結し,世界ドーピング防止機構(WADA)常任理事国として,国際的なドーピング防止活動に積極的に取り組んでいます。
国内のドーピング検査件数はイギリスやアメリカなどオリンピックメダル獲得上位国を超えており,より効率的な検査実施のために,ドーピング検査の質の向上を図っています。スポーツ庁では,公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)との連携を図りつつ,国際的な水準のドーピング検査の充実,アスリート等に対するドーピング違反の未然防止を目的とした教育・啓発活動,ドーピング検査技術の研究開発などに積極的に取り組むとともに,若い世代を対象としたドーピング防止教育を推進しています。

アンチ・ドーピングのアウトリーチ(写真提供:JADA)
「スポーツ基本法」前文には,「スポーツの国際的な交流や貢献が,国際相互理解を促進し,国際平和に大きく貢献するなど,スポーツは,我が国の国際的地位の向上にも極めて重要な役割を果たすものである」と記載されています。スポーツ庁は,前述の「Sport for Tomorrow」事業などを中心に様々な施策を通じて,スポーツによる国際交流・国際貢献に取り組んでいます。
平成28年10月,文部科学省・スポーツ庁・文化庁が主催した「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」において,世界各国から35ヵ国のスポーツ大臣を含む69ヵ国の代表が参加し,「スポーツ大臣会合」が開催されました。全ての人がスポーツに参加できる安全かつ公正なスポーツ環境を整えるとともに,スポーツを通じて未来のために持続可能でインクルーシブな社会を構築することを目的とし,1.開発と平和のためのスポーツ,2.万人のスポーツへのアクセス(スポーツ・フォー・オール),3.スポーツ・インテグリティ(誠実性・健全性・高潔性)の保護の三つをテーマに,積極的な意見が交わされました。我が国からは「Sport for Tomorrow」の取組を紹介し,各国からは自国で行われている好事例などが共有されました。2020(平成32)年に向けて日本から世界へスポーツを通じた国際協力の意義を改めて考え,発信する機会となり,また各国との連携の絆(きずな)を新たにしました。また,2016(平成28)年9月,韓国平昌において,第1回日中韓スポーツ大臣会合を開催し,東アジアでオリンピック・パラリンピック競技大会が続くことを受けて,スポーツ交流を促進していくことで一致しました。
我が国が国際競技力の向上を図り,オリンピック競技大会等において飛躍的に多くのメダルを獲得するためには,競技者等の育成強化に加え,国際競技連盟(IF)等における政策決定過程において,我が国のスポーツ関係者の意向が十分に反映されるよう,国際スポーツ界における情報収集・発信能力を高めることが求められています。
このため,平成27年度から「国際情報戦略強化事業」を実施し,IFの役員ポストを獲得すること,及びIF等の政策決定過程において情報収集・発信を行うことができる人材を養成することにより,国際スポーツ界における我が国の影響力の強化を図っています。28年度は国際体操連盟会長に日本人が初めて就任する等,本事業による一定の成果が上がっており,今後ともスポーツ界における日本のプレゼンス(影響力)向上に努めることとしています。
地域活性化をはじめとして,被災地の復興支援,障害者スポーツの振興,国際貢献等スポーツの有する力は様々な面にわたりますが,その際にスポーツ施設の果たす役割は重要です。
これまで,スポーツ庁では,学校施設環境改善交付金等による学校体育施設・社会体育施設の整備に対する支援,学校施設の開放や地域との共同利用の促進等に取り組んできました。また,地方公共団体においても,老朽化施設の更新,指定管理者制度による民間活力の導入,地域住民がスポーツに親しみ,交流する場としての学校施設の開放等によりスポーツ施設を適切に整備・維持管理し,スポーツ環境を形成する取組が進められてきました。
一方,平成28年度に取りまとめた「体育・スポーツ施設現況調査」によれば,我が国の体育・スポーツ施設数は,学校体育施設については継続して減少し,地域住民のスポーツ環境となる社会体育施設については横ばいとなっています。
今後,施設の老朽化,財政のひっ迫,人口減少などに対応しつつ,量的・質的に地域に求められるスポーツ施設を提供することが課題となっています。このため,地方公共団体が安全なスポーツ施設を持続的に提供し,国民が身近にスポーツに親しむことができる環境を整備できるよう考え方を整理した「スポーツ施設のストック適正化ガイドライン(案)」を平成29年5月に策定しました。
これまで行ってきたスポーツ施設の整備に対する支援を進めるとともに,地方公共団体や民間事業者,関係団体等と連携し,地域活性化・経済活性化に貢献するスポーツ施設の整備・運営を推進することとしています。
スポーツ庁では,地方公共団体,スポーツ団体,企業(観光産業,スポーツ産業)等が一体となり,スポーツによるまちづくり・地域活性化を推進する組織である「地域スポーツコミッション」等が行うスポーツの参加や観戦を目的として地域を訪れたり,地域資源とスポーツを掛け合わせた観光を楽しむスポーツツーリズムの推進,スポーツイベントの開催,大会や合宿・キャンプの誘致等の活動に対し支援を行っています。平成28年度は6地域の取組を支援しました(図表2‐8‐17)。
スポーツ庁の調査では,平成29年1月段階で全国に56の地域スポーツコミッションの存在が確認できています。第2期スポーツ基本計画においては,地域スポーツコミッションの設置数を33年度までに170とすることを目標として掲げており,今後も支援事業や各地の優良事例の横展開等により,設立の拡大や活動の充実を図ってまいります。

佐賀県では,平成25年4月に「佐賀県スポーツコミッション」が発足しました。同スポーツコミッション設立の目的は,様々なスポーツイベント・大会,強化合宿や事前キャンプの誘致を行うことにより,佐賀県の情報発信や地域活性化を図るとともに,スポーツツーリズムを推進することにより,交流人口の増加を図ることです。平成25年度から事業を開始し,多くのイベント開催・合宿誘致につながっています。


第15回世界陸上競技選手権大会のニュージーランド代表の佐賀事前キャンプ(平成27年8月5日から20日)
スポーツ庁,文化庁及び観光庁は,各地域のスポーツイベントと文化芸術資源を結び付けて,世界に誇れる新たな観光資源を生み出すなど,新しい地域ブランドや日本ブランドを創出し,観光振興・地域振興を推進することを目的として,連携を図っています。
平成28年度から「スポーツ文化ツーリズムアワード2016」を開始し,全国から公募した地域特有の「スポーツ」と「文化」を融合させたツーリズムの取組のうち10件を入選とし,その中から大賞,長官賞を表彰しました。※大賞:サイクリストの聖地「瀬戸内しまなみ海道」を核としたサイクルツーリズム(瀬戸内しまなみ海道振興協議会),スポーツ庁長官賞:世界遺産姫路城マラソン(兵庫県姫路市),文化庁長官賞:スポーツ流鏑馬大会(青森県十和田市)

「スポーツ文化ツーリズム国際シンポジウム」での表彰式の様子

平成28年6月に閣議決定された「日本再興戦略2016」では,名目GDP600兆円に向けた「官民戦略プロジェクト10」の一つとして,「スポーツの成長産業化」が位置付けられ,「スポーツ市場規模(現状5.5兆円)を2025(平成37)年までに15兆円に拡大することを目指す」こと等が目標として掲げられています。また鍵となる施策として,1.スポーツ施設の魅力・収益性の向上,2.スポーツ経営人材の育成・活用,3.スポーツとIT,健康,観光,ファッション等との融合・拡大等,が挙げられています。さらに,29年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」では,新たな目標として,「全国のスタジアム・アリーナについて,多様な世代が集う交流拠点として,2025年までに新たに20拠点を実現する」ことが掲げられました。これらの施策を通じて,スポーツ産業の活性化,スポーツ環境の充実,そしてスポーツ人口の拡大へとつながっていくスポーツの好循環を生み出していくことが重要です。
スポーツの成長産業化に向けて,スポーツ庁では,平成28年2月から経済産業省と共同で「スポーツ未来開拓会議」を開催し,多様な分野の有識者や関係省庁を交え,スポーツ産業の活性化について,2020(平成32)年以降も展望した戦略的な取組についての議論を行っています。
また,並行してより具体的な取組を進めるため,平成28年7月からは,民間の資金や経営能力,技術的能力を活用した今後のスタジアム・アリーナの在り方について検討を行う「スタジアム・アリーナ推進官民連携協議会」を経済産業省,国土交通省などの関係省庁と連携して開催しています。同年11月にはスタジアム・アリーナ改革実現のための基本的な考え方を提示する「スタジアム・アリーナ改革指針」を策定し,29年6月には,スタジアム・アリーナ整備の際の民間資金活用に関する論点や国内外の先進事例などをまとめた「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」を公表しました。また,28年10月からは,経済産業省と共同で「スポーツ経営人材プラットフォーム協議会」を開催し,スポーツというコンテンツが有する多様な価値を生かし,スポーツ産業の発展を担うスポーツ経営人材の育成・活用についての検討を進めています。今後も,スポーツの成長産業化に向けたより具体的な施策をそれぞれの分野で推進するため,スポーツ庁では関係省庁,地方公共団体,民間事業者などとも連携しながら取組を一層加速することとしています。
スポーツ団体の活動には大きな社会的責任が伴い,国の補助金及び公的助成金の不正使用や,競技者の不法行為への関与等の不祥事は,スポーツ界に対する信頼を大きく損なうことにつながります。誰もが,安全かつ公正な環境の下でスポーツに参加できる健全な組織の確立に向けて,多様な資金源を確保するとともに,運営や財務における透明性の確保・健全性の向上といったスポーツ団体のガバナンス(運営の在り方)を強化し,コンプライアンス(法令・社会規範の遵守)を徹底する必要性が高まっています。スポーツ庁では,平成28年4月に日本スポーツ振興センター(JSC),公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC),公益財団法人日本障がい者スポーツ協会,公益財団法人日本体育協会の4者と共催で各スポーツ団体を集め,スポーツ界におけるコンプライアンスの徹底を求める会合を開催しました。そこで,JOC,公益財団法人日本障がい者スポーツ協会,公益財団法人日本体育協会に各加盟競技団体の倫理・コンプライアンス規程等の整備状況を取りまとめてスポーツ庁へ報告するよう要請し,調査結果を公表しました。また,同年6月には各スポーツ団体を招いて「スポーツ団体の経営力の強化に関する会合」を開催し,企業との連携による新しいビジネス手法の導入や,経営人材の育成を通じたスポーツ団体の組織基盤の強化の必要性を周知しました。
スポーツ団体の決定は,全ての競技者の活動に関わることから,広く公共性が求められ,その決定の際には全ての競技者にとって適正かつ公平な措置が必要です。競技団体の代表選手選考や競技資格停止処分などをめぐる紛争解決の手段として,公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下,「スポーツ仲裁機構」という。)によるスポーツ仲裁・調停があります。スポーツ仲裁機構によればスポーツ団体のスポーツ仲裁自動受託条項(※11)の採択状況は46.1%(平成29年1月現在)と近年着実に増加しています。スポーツ紛争の迅速かつ適正な解決に向けた更なる体制整備のため,スポーツ庁では,スポーツ仲裁・調停に関する理解増進等に取り組んでいます。
スポーツの指導において暴力を行使する事案が明らかになったことなどを踏まえ,スポーツ庁では,独立行政法人,スポーツ団体,大学等も含めたオールジャパン体制でコーチング環境の改善・充実に向けた取組を推進しています。平成27年度には,コーチが育成過程において確実に習得すべき知識・技能に基づいた「モデル・コア・カリキュラム」を作成し,28年度に当該カリキュラムの試行を体育系大学において行いました。
競技力向上に励む一方で,現役引退後のキャリアパスに不安を抱えているアスリートも多くいます。トップアスリートのみならず,各世代で強化に励むアスリートが安心してスポーツに取り組むことができ,培ってきた技術や経験,優れた資質や能力を引退後も社会に還元する環境を整備することが重要です。
スポーツ庁では,平成29年2月にスポーツ団体・大学・企業等の関係者が連携して,アスリートのキャリア形成に関する課題や支援方策に取り組むためのコンソーシアムを創設しました。また,アスリートのキャリアに係るフォーラムの開催や情報発信を通じて,アスリートとしてのキャリアと人としてのキャリアを同時に歩むというデュアルキャリアについて意識啓発を行ったほか,ジュニアアスリートに向けた自己開発や社会性の発達等を目的としたプログラムの実施や,キャリアアドバイザーの育成など,アスリートのキャリア形成支援に取り組んでいます。

「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」創設式(平成29年2月)
スポーツの試合をする上で審判員の存在は欠かせません。平成28年6月に,世界的規模のスポーツ競技会において優れた成果等を上げるなど我が国スポーツの振興に関し功績顕著な審判員10名に対して,文部科学大臣より顕彰を行いました。また,スポーツ審判員の多くが他の職業と兼職で活動しており,職場の理解を得た上で大会等に携わっている状況を踏まえ,同年7月に,我が国のスポーツの振興と国際的な地位向上に資することが期待される審判員246名に対し,スポーツ庁長官より奨励を行い,同時に,職場における理解を深めることを目的として被奨励者の所属長に通知をしました。
大学におけるスポーツ活動には,大学の教育課程としての体育の授業,学問体系としてのスポーツ科学及び課外活動(運動部活動,サークル活動,ボランティア等)の側面があり,全ての学生がスポーツの価値を理解することは,大学の活性化やスポーツを通じた社会発展につながるものです。また,大学の持つスポーツ資源(学生,指導者,研究者,施設等)の活用は,国民の健康増進や障害者スポーツの振興に資するとともに,地域や経済の活性化の起爆剤となり得るものです。しかし,我が国の大学においては,スポーツの振興に係る体制が不十分な場合が多く,また,大学スポーツ全体を統括し,その発展を戦略的に検討する組織が少ないのが現状です。
このため,文部科学省及びスポーツ庁では,平成28年4月から「大学スポーツの振興に関する検討会議」を開催し,大学スポーツの活性化について議論を行い,29年3月に取りまとめを行いました。取りまとめを踏まえ,大学スポーツの重要性について大学トップ層をはじめ,広く大学関係者全体の理解を促進することにより,大学スポーツの振興の機運を醸成するとともに,各大学における大学スポーツやそれらを通じた大学全体の振興を図るための体制の整備や,学生アスリートのキャリア形成支援・学修支援,大学スポーツを通じた地域貢献,スポーツ教育・研究の推進,スポーツボランティアの育成,資金調達力の向上といった取組の促進を図ることとしています。
あわせて,大学及び学生競技連盟等を中心とした大学横断的かつ競技横断的統括組織(日本版NCAA)の創設を支援することにより,大学スポーツの振興に向けた国内体制の構築を図ることとしています。
生涯学習政策局政策課
-- 登録:平成29年12月 --
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